小説本の本文フォント

明朝体とゴシック体

フォントとは、コンピュータで文字を表示するためのファイルのことで、様々な形のものがあります。非常にざっくり分けると、日本語のフォントは「ゴシック体」「明朝体」「その他」の3種類となります。

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ゴシック体は、線の太さがほぼ一定のフォント。
明朝体は横棒が細くて縦棒が太く、トメ、ハネ、払いの筆の強弱を、線の太さの変化で表現したフォントです。

Webサイト等のコンピュータ画面では、基本が横書きであり、また明朝体の細い部分がディスプレイできれいに表示されないため、ゴシック書体が標準的に使われています。いま読んで下さっているこの文章も、ブラウザに特別な指定をしていない限り、ゴシック体で表示されているはずです。

印刷物の場合は、縦書きの書籍本文では、明朝体を使うことが一般的とされています。(雑誌などでは細いゴシックが使われる場合も)

特別な理由やこだわりがなければ、小説本の本文は明朝体にしましょう

等幅とプロポーショナル

同じフォントで「MS明朝」「MS P明朝」のように、Pのついたものとついていないものがあるとき、Pのついていないのが等幅フォントで、ついているのはプロポーショナルフォントです。

プロポーショナルフォントというのは、文字を並べた際に不自然なアキができないよう、文字ごとに余白を調整したフォントです。(参照→「MSゴシック」、「MS明朝」についてのお話  / リコー

横書きの文章では、プロポーショナルフォントをよく使います。

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上がプロポーショナルフォント、下が等幅フォントです。
好みもあるでしょうが、等幅フォントでは、ひらがなが続く部分がやや間延びしたように感じるのではないでしょうか。

しかし、縦書きで使用すると……

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左の等幅フォントのほうが読みやすく感じませんか。

市販の本でも、縦書きでは等幅のフォントが使用されています。

多くのフォントでは、Wordなどで利用した際に、横書きはプロポーショナル、縦書きは等幅と自動的に処理されるのですが、「IPA明朝」と「IPA P明朝」、「MSゴシック」と「MS Pゴシック」といったように、同じ名前でPのつくフォントとつかないフォントが用意されている場合、縦書きでもプロポーショナル表示になってしまうようです。

「MS P明朝」などは、普段横書きでPCの文章を書いている人には最も身近な明朝体かもしれません。縦書きでもそのまま使ってしまいがちですので、ご注意ください。

様々な明朝体

さて、本文のフォントとして「等幅の明朝体」というところまで決まったと思いますが、まだまだ選択肢はたくさんあります。

小説同人誌向け明朝体フリーフォントまとめ < ALBA LUNA
こちらの記事では、無料で入手できる明朝体を中心に、本文への向き不向きと入手先をサンプル画像とともに紹介して下さっています。ぜひご参考に。

リンクした記事ともかぶりますが、以下に入手しやすいフォントや、個人制作の本で使われやすいフォントをご紹介します。

OSに標準搭載のフォント

無料で使用できるフォント(商用可)

  • 源ノ明朝(AdobeとGoogleが共同開発したオープンソースフォント。中国語/韓国語をあわせて約65,000字収録)
  • 源暎こぶり明朝 / 源暎ちくご明朝(源ノ明朝をベースに書籍本文向けに調整したフォント。濁点つき仮名にも対応)
  • しっぽり明朝 / しっぽり明朝 流(源ノ明朝Rの漢字にオールドスタイルのかなを加えたフォント。濁点つき仮名にも対応。「流」は漢字に派生フォント「源流明朝」を使用)
  • ZENオールド明朝(元々有償で販売されていたオールドスタイルの明朝体フォント。2021年にGoogle Fontsでの無償公開に移行)
  • 夜永オールド明朝(ZENオールド明朝を縦書きで使いやすいよう調整したフォント)
  • 錦源明朝(源ノ明朝Lの漢字にオールドスタイルのかな等を加えたフォント)
  • IPA明朝/IPAex明朝(独立法人情報処理推進機構が公開するオープンソースフォント。約11,000字収録)
  • 三番明朝(IPAex明朝をベースにかなの一部を変更・追加したフォント)
  • モリサワ BIZ UD明朝M(Office製品に最適化されたビジネス向けフリーフォント。やや太め)
  • 平成明朝体(Adobe)AdbeTypekit 無料版でW3が利用可能)
    ※「平成明朝」という名前のフォントは様々なメーカーから出ていますが、こちらはAdobe社製のフォントです

※フリーフォントというと「漢字の種類が少ないのでは」という危惧があるかもしれませんが、上記のフォントはどれもフォントメーカーが開発し、製品版と遜色のない文字数を備えたフォントや、それらをベースにアレンジされたフォントですので、大概の用途には足りるかと思います。

ソフトウェア購入時に付属するフォント

無料ではないが比較的安価なフォント

※mojimo-select、mojimo-kirei、mojimo-manga はフォントワークス社の定額フォント提供サービス。mojimo-selectは月額110円(デスクトップ版)または120円(モバイル版)で3書体、mojimo-kireiは年額1200円で8書体、mojimo-mangaは年額3600円で36書体を使用できます。おすすめ。
mojimo-mangaはおしゃれなフォントも多く、表紙作りなどにもお役立ちです。

フォント選びのめやす

要確認:PDF埋め込みが可能か?

印刷所に入稿したり、コンビニやキンコーズ等のプリンタで出力する際には、本文データをフォント埋め込み済みのPDFに変換する必要があります。使いたいフォントを決める際には、自分の環境でPDF化ができるかどうか、しっかり確認しておきましょう。

フォントにはOpenType(拡張子「otf」)とTrueType(拡張子「ttf」)の2種類があります。2007以降のWordでは「名前をつけて保存」のメニューからPDF形式で保存できますが、OpenTypeフォントの一部では、意図したとおりのPDF化ができません。(エラーもしくはビットマップ画像に変換)別のソフトウェアを使ってPDF化したほうがいい場合があります。(参照:Wordで小説本(5)PDF形式で保存する

上で紹介しているフォントですと、源ノ明朝、三番明朝、ヒラギノ明朝、筑紫Aオールド明朝、Adobeやmojimoのフォントなどでこの問題が発生しました。ご注意ください。

まずは身近なフォントから検討

さて、大事な条件を確認したところで、フォント選びです。色々あると選ぶのにも困ってしまいますが、それほどこだわらないなら、すでに持っている、あるいは無料で入手できるフォントの中から、なるべく書籍向きのフォントを選べばいいでしょう。

MacOSユーザーはヒラギノ明朝W3または凸版文久明朝、Windows(8.1以降)ユーザーは游明朝。一太郎プラチナ・プレミアム以上のユーザーはお持ちのバージョンでバンドルされている明朝体をまず選択肢に。

2018年10月から、AdobeCCを契約しているユーザーはプランにかかわらずAdobe fontのフォントが使い放題になりました。リュウミンKL、游明朝体、秀英体、凸版文久体、りょうTextなど、商業書籍にも使われる高品質書体が使用できます。契約している場合はぜひチェックを。
(もちろん表紙作りに役立つデザインフォントも満載ですし、Photoshopは非常に高機能でユーザーの多い画像処理ソフトですので、今後継続的に同人誌制作をする人はフォトプラン等も検討してみるといいと思います。)

フリーフォントでは縦書き小説用に開発された源暎こぶり明朝・しっぽり明朝・源暎ちくご明朝がおすすめ。どれもTTF形式が用意され、Wordでも使いやすくなっています。大人向けの小説で人気の、濁点・半濁点のついたかな文字も追加されました。
夜永オールド明朝はフリーフォントでは珍しく漢字まで含めて完全オールドスタイルのフォント。読みやすさを維持しつつ雰囲気を出したいときにおすすめ。

MS明朝はWordユーザーなら必ずあり、Word入稿を受け付けている印刷所でも確実に使用可能なので、気軽に本作りしたい人の最初の選択肢になりそうです。(MS P明朝はプロポーショナルフォントなので、お間違えのないように!)

※1 IPAex明朝や游明朝、ヒラギノ明朝など、いくつかのフォントでは「――」(ダッシュ2文字)を使ったときに隙間が空くという問題があります。Wordで小説本 応用編(1)ダッシュをつなげるという記事をご参考にどうぞ。

※2 MS明朝以外の多くのフォントで、Wordで使用時に行間が開きすぎてしまう問題があります。行間の設定を固定値にすれば回避可能です。Wordで小説本(3)本文フォントを指定するという記事をご参考にどうぞ。

※3 2018年春のWindowsアップデート以降、Wordや一太郎で縦書きの三点リーダやダッシュが横倒れする問題が起きており、2019年1月現在解決されていません。WordではPDF化のタイミング、一太郎はソフトウェア上で発生するようです。ご注意ください。フォントの変更やPDF化ソフトの変更で対応できる場合があるようです。なお、一太郎の2017以降ではこの不具合に対応するアップデートモジュールが配布されています。

※4 2019年5月のWindowsアップデートにより、Windows10バンドルの游明朝で縦書きPDF化に不具合が発生しています。(PDFでいくつかの記号が縦書きにならない)解決のアナウンスがあるまで、使用の際はご自身の環境でご確認下さい。

ELとかBとかって?

フォント名につくEL、L、R、M、B、EやW3、W5などは、フォントの太さ(ウェイト)を表しています。
EL / Extra Light 極細
Thin かなり細い
L / Light 細い
R / Regular 標準
M / Medium 標準と太字の間
B / Bold 太い
E / Extra (Bold) 更に太い
と、だんだん太くなっていきます。
ほか、H = Heavy(極太)、EH = Extra Heavy(更に極太)、U = Ultra(超極太)、なんてのも。
WはWeight(太さ)で、W0、W1のように数字がつきます。数字が小さいほど細く、大きいほど太くなります。

本文に向いたウェイト(太さ)

書き手の気分や、本文の雰囲気、ジャンル等にもよりますが、書籍の本文としては標準~細めのウェイトが一般的です。太さが選べるフォントの場合は、W2、W3、R(Regular)、L(Light)あたりがおすすめです。
太めのウェイトは見出し用であり、本文に使うと目が疲れて読みづらくなります。逆に細すぎるウェイトも印刷時にかすれが出て読みにくくなる場合があります。

フォントサンプル集

フォント選びの参考として、管理人の所持するいくつかの明朝体で1ページずつサンプルを作成してみました。(WordファイルをPDF化→画像変換)

MS明朝

WIndows8までの標準フォント / Office製品バンドル
※全体的に細いので視力の弱い人には読みづらいようです

MS

游明朝

Windows8.1から標準搭載、「時代小説が組めるような明朝体」がキーワード。オールド系。

游

游L

ヒラギノ明朝

MacOSやiOSに標準搭載、市販書籍でも使用される。現代的ですっきり。サンプルはW3ですが、書籍向きには一段細いW2も好まれています。

ヒラギノW3

凸版文久明朝

MacOS標準搭載。凸版印刷社が開発したフォントで、英数字や記号の混在した縦書きでも読みやすいよう設計されています。

IPA明朝 / IPAex明朝

無料入手のできる明朝体の草分け的存在。PDF生成サービス等でもよく使われます。ディスプレイ上の使用を想定しているので、かながやや大ぶりな字形。

IPA
IPAex

源ノ明朝

AdobeとGoogleの共同開発。東アジアで使われる必要な文字を網羅することを目的とし、65,000字余りを収録。太さも7種あり見出しや表紙制作にもおすすめ。ディスプレイ上の使用を想定しているので、やや大ぶりな字形。Wordでの使用にはちょっと難しい面も。



源暎こぶり明朝

源ノ明朝をベースとし、縦書き書籍で読みやすいよう全体に文字を縮小、特にかなを小さくし、字形にも手を加えたもの。符号類も使いやすく整備されている。TTF形式で、Wordでの使用も問題なし。濁点つきかな文字にも対応。

源暎ちくご明朝

源ノ明朝の漢字にオールドスタイルのやや小ぶりなかなを加えた合成フォント。濁点つきかな文字にも対応。

しっぽり明朝

源ノ明朝の漢字に、色気のあるオールドスタイルのかなを加えた合成フォント。TTF版もあり、Wordでも使用可能。濁点つきかな文字にも対応。

TR大正明朝体R

もともと有料で配布されていたオールド系の縦組み向き明朝体。2018年より無料公開されている。

三番明朝

IPA明朝のひらがなの字形を微調整し、OTF化したフォント。

三番

平成明朝

heisei

小塚明朝

大ぶりなモダンスタイルの明朝体。どちらかといえば横組みや雑誌向き。字が大きく圧迫感があるので、縦書きでの使用時には行間を広めに取るのがおすすめ。

小塚EL
小塚L
小塚R

リュウミン

現在市販書籍で最も使用されていると言われるスタンダードな明朝体。

リュウミンL
リュウミンR

※サンプルはKL(大がな)ですがリュウミン用の仮名文字にはKS(小がな)KO(オールドがな)もあります。入手しやすいのはKL。

イワタ明朝

イワタ明朝オールドは市販書籍でも使用されるオールドタイプの明朝体。市販されている書籍用明朝体のなかでは比較的安価。

イワタ明朝
イワタ中明朝
イワタ明朝中細サンプル

黎ミン

黎ミン
黎ミンY10

りょうText

小塚明朝の漢字に本文向きのかな書体「りょう」を組み合わせたもの。



筑紫明朝

フォントワークス社の看板書体「筑紫」シリーズの明朝体。オールド寄りのスタンダードで美しい書体。

筑紫オールド明朝 / 筑紫Aオールド明朝

筑紫シリーズのオールドスタイル明朝体。

秀英明朝

大日本印刷社が活版時代から開発を続ける書体。ひらがなの筆運びのつなぎが特徴的。

UD明朝(フォントワークス社)

筑紫明朝をベースにかなを大きくし、ユニバーサルデザイン(UD)に対応した明朝体。

有料フォントの購入

フォントの販売サイト等はこちら。

個人で購入可能な、比較的安価な有料フォントで、小説本文用としてよく挙げられるのは「イワタ明朝体オールド」でしょうか。TTF版なら一万円以下で購入できます。また、フォントワークス社が最近始めたライセンスサービス「mojimo」では筑紫明朝・筑紫オールド明朝が、Adobe社のライセンスサービス「Typekit」ではリュウミン・游明朝体・秀英明朝・りょう・UD黎ミン・マティスなどが利用できます。

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