【コラム】ダッシュと罫線のめんどくさい話

「ダッシュ」とは

赤毛連盟に告ぐ――米国ペンシルヴァニア州レバノンの故イズィーキア・ホプキンズ氏の遺志に基づき、今、ただ名目上の尽力をするだけで週四ポンド支給される権利を持つ連盟員に、欠員が生じたことを通知する。(『赤毛連盟』アーサー・コナン・ドイル)

この文章の一行目にある、2マスにまたがる棒線「――」を「ダッシュ」と呼びます。
大辞泉の「ダッシュ」の項での説明は以下の通り。

語句と語句との間に入れる「―」の記号。構文の中断・転換、語句の省略などのときに用いる。ダーシ。中線 (なかせん) 。

さて、この「ダッシュ」を、デジタル環境ではどの文字(記号)を使って表現するか? というのは、実は厄介な問題です。

細かく挙げるときりがないので、ここではよく出てくる3つについて書いておきます。

「ダッシュ」としてよく使われる文字・記号

1.ホリゾンタルバー(Unicode U+2015)「――」

WindowsやAndroid等の標準入力や、ATOKなどのIMEシステムで、「だっしゅ」と書いて変換すると出てくるのが、この記号です。別名はホリゾンタルバー、UnicodeではU+2015。

メリット:よく使われており、環境依存のトラブルが起きにくい。
デメリット:2つ並べて使ったとき、フォントによっては切れ目ができる(ぴったりつながらない)。iOS標準キーボードから入力できない。

Windows標準の游明朝・游ゴシックや、Mac標準のヒラギノ明朝・ヒラギノゴシックなどでも、この切れ目が発生します。
印刷物でホリゾンタルバーをダッシュとして使うときは、一文字を2倍の長さに拡大して使うか、ダッシュのみ別のフォントを使うことで、この切れ目問題に対応できます。
(参考記事:「Wordで小説本 応用編(1)ダッシュをつなげる」

しかし、投稿サイトやSNSなど、Web上で表現したい場合は、上記の方法は使えません。2つ並べたときのディスプレイ上の見た目を優先したい(データを他に転用するつもりがない)場合、次に挙げる罫線を使用するのも、手段のひとつでしょう。

なお、iOSの標準キーボードでは、変換機能でこのホリゾンタルバーを出すことができません。使いたい場合は文字列をコピーして単語登録しておくか、別のキーボード(ATOK for iOSほか)の導入が必要です。

2.罫線素片の横棒(Unicode U+2500)「──」

多くの入力環境で「けいせん」と入力して変換できる記号です。

メリット:入力環境を問わず使用できる。2つ並べたときにぴったり繋がる
デメリット:縦書きに変換した場合に意図通りに縦に回転しないことがある。(WordのPDF保存など)文字の太さとバランスが合わない場合がある。

罫線とはノートなどの行を示す線であり、罫線素片はテキストしか使用できない環境下で線や表を書くための記号です。例えばこのように使用できます。

┌───┬───┬───┐
│ 1 │ 2 │ 3 │
└───┴───┴───┘

ダッシュの表現に罫線を使用するメリットは、2つ並べて書いたとき、およそどんなフォントでも切れ目なくぴったりくっついて表示されることです(字間を空けてあるレイアウトを除く)。また、おおむねどの日本語入力環境でも出すことができます。

しかし、「――」=「罫線」として覚えてしまうと、落とし穴があります。特にこのサイトをご覧の方(=本を作りたいひと)は要注意です。

縦書きの文章で、ダッシュとして罫線を使用し、PDF形式で保存した場合に、縦書きの書字方向に合わせて「│」とならず、「─」のままになってしまうことがあります。Wordで「名前をつけて保存」→「PDF形式」とした場合にこの現象が起きることが確認されています。(Adobe Acrobat、JUST PDFなどのソフトウェアを使用した場合は、ちゃんと縦に回転するようです)編集画面では問題なく、PDF化して初めて発生するので、「土壇場で発生して大慌て」「気づかず本にしてしまった」という話がよくあります。ご注意を。


こうなっちゃいます

ホリゾンタルバーの項目でも書いたとおり、2つ並べたときの見た目を優先し、ダッシュの代用に罫線を使うこと自体は「あり」だと思います。ですが、罫線素片をダッシュだと思い込んで使ってしまうと、上記のようなトラブルに遭う可能性もありますので、知識として「ダッシュではない」「縦書きでは要注意」ということを知っておいた方がいいですし、他人に教えるときには特に気をつけていただければ、と思います。

3.emダッシュ(Unicode U+2014)「——」

iOSの標準キーボードやMacの標準IMEで入力可能なダッシュ記号です。
iOSの場合は、英語キーボードにしてハイフンを長押しすることで入力可能です。Macのことえりでは、「Shift」+「Option」+「ハイフン」で入力可能です。

メリット:iOS、Macで簡単に入力できる。
デメリット:Windowsの一部のソフトで文字化けする。2つ並べて使ったとき、フォントによっては切れ目ができる(ぴったりつながらない)。フォントによってはセンターからずれる。

Windowsでは「2014」+「F5」で変換できますが、「環境依存文字です」というアラートが表示され、使用するソフトウェアによっては「?」と表示されてしまいます。(Wordやメモ帳などでは問題ありませんが、フリーのエディタなどで処理できない例があります)

また、いくつかのフォントではemダッシュは「欧文用のダッシュ」と定義されており、編集ソフト上での表示がセンターからずれてしまうようです。

iOSキーボードで楽に入力できるのが最大のメリットであり、「iPhone ダッシュ」といったキーワードで検索して出てくる記事で入力方法が紹介されている記号なので、意識せず使っている人もいるかもしれません。
投稿サイトやSNSなどWeb上で使用する場合には問題はほぼありませんが(ホリゾンタルバーと同じく、切れ目が生じることはあります)、Windowsとのデータのやりとりがある場合は避けた方が良さそう。

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